朝鮮籍の人(外国人登録や住民票の国籍欄に「朝鮮」と書いてある人)は、韓国に国籍がないから、韓国領事館では戸籍謄本(除籍謄本)や家族関係登録事項別証明書(基本証明書、家族関係証明書、婚姻関係証明書など)を取ることができないのでしょうか?
じつは、ほかでもなく、私が、そう思いこんでいたのです。
しかし、実際に韓国領事館の窓口に朝鮮籍の人の申請書を書いて出したら除籍謄本も基本証明書も家族関係証明書もちゃんと出てきたので意外でした。
領事館の職員の方も「朝鮮籍だからといって証明書が出ないということはありません。」と言ってました。
私の思い込みが誤りであったと明らかになりました。
(結論的には、出る場合もありますし、出ない場合もあります。)
第2次大戦後、大韓民国(韓国)が建国された後、しばらくして日本が韓国を承認して外交を結んで以来、日本政府は北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)を正式に国家としては認めていません。いわゆる「朝鮮籍」とは、北朝鮮の国民としての国籍を意味しておらず、「朝鮮」とは国家ではなく、空白の地域を表しているようなものといえるでしょう。
また、「朝鮮籍」の人であっても、必ずしも朝鮮総連でバリバリ活動しているという人や、北朝鮮を支持しているという人ばかりではありません。
また、出身地が現在の北朝鮮である朝鮮半島北部の出身であるとは限りません。南部の慶尚道や済州道出身でも朝鮮籍の人はいます。
現在の韓国の人も、北朝鮮の人も、大韓帝国が日本に併合された1910年からサンフランシスコ平和条約が発効する1952年2月28日までは日本国籍を有していました。その間、韓半島(朝鮮半島)に住んでいた人や出身の人は、当然、北も南もなく全てひっくるめて「朝鮮人」と呼ばれていました。
そのころは、まだ朝鮮半島が北と南に分かれて間もなく混乱していた時期でした。ちょうど、そのころに日本に外国人登録制度ができました。そのために市役所や町役場に呼び出されて「出頭」して「国籍」を申告する際に、特に北に出来た朝鮮民主主義人民共和国を支持するというような政治意識も無しに、なんとなく「朝鮮」であると申告した人たちがかなりの数でいたと思われます。日本の役所の職員も、そのような運営を行っていたのかもしれません。
その後、外国人登録の更新で出頭しても、国籍を「朝鮮」と書いたまま、北を支持するというこだわりもなく、特に不都合もないので放置して、現在に至った人も、少なからずいると思われます。
要するに、「朝鮮」イコール北朝鮮とは限らないのです。
では、なぜ、朝鮮籍なのに韓国の戸籍に名前が載っていたり家族関係登録事項別証明書が出るのでしょうか?
これは、日本植民地時代の日本の戸籍が、そのまま韓国の戸籍として使われていたからです。戦前から日本に住んでいる朝鮮籍の人は、日本で生まれたとき日本の役所に出生届けを出しますので、それが戸籍に反映されました。その日本の戸籍が韓国独立後も戸籍謄本としてそのまま使われていたのです。
ですので、戸籍に載っている情報も、その当時のままということになります。実際に2008年以降に出来た婚姻関係証明書や家族関係証明書にも、実際は結婚していて子もいるのに、その事実が反映されていませんでした。
日本の外国人登録上の国籍としては「朝鮮」となっていますが、このように韓国の家族事項の証明書は出ますので、韓国は、この人を自国民として認めていることになります。
その方の戸籍がなぜ必要だったかといいますと、その方のご子息が帰化するためでした。
そのご子息の方も、朝鮮籍でした。韓国には出生届をしていないので、国民登録はされておらず、戸籍には名前が載っていませんし、家族関係の証明書も当然、出ません。
逆に、日本の外国人登録には、「韓国」と書いてあるのに、韓国には出生申告をしていないので韓国の国民登録がされておらず、パスポートを取ることができなくて困っているという方の相談を受けたことがあります。
その方は、日本からは「韓国人」とみなされているのに、韓国からは自国民ではないとみなされ、「無国籍」状態になっているのです。
要するに、これらの事例からいえることは、日本の役所への身分事項の届け出や登録されている情報が、韓国のそれと連動していないので食い違いが生じることがあるということです。
戦前、まだ韓国が日本の植民地であったときには、日本の役所に届出をすれば、それで済みました。
しかし、現在、韓国と日本は別々の独立国ですので、日本の役所に何らかの身分事項の届け出(出生届や婚姻届、死亡届等)をしても、それらのことを韓国側に連絡してくれたりする制度がない以上、韓国と日本の身分情報が食い違うことが多々あるのです。
出生や婚姻や死亡など、何らかの身分事項が生じた場合は、日本の役所に届けるだけではなく、韓国の領事館に届けたほうが相続や帰化のときなど後々困らなくてすみます。