海外旅行に行きたいのだけれども、韓国に国民登録がされておらず、パスポートを取ることができないので、どうしたらよいのでしょうか?と、ご相談に来られたお客様がいらっしゃいました。
この状況では、韓国に里帰りすることもできないだけではなく、将来、日本で行うことになる色々な手続きでも支障を来たすことが考えられます。
ご年齢は60代で、日本の出生地の役所で出生届記載事項証明書を出してもらおうとしましたが、保管されておらず発行してもらうことはできませんでした。
特別永住者証明書カードを見せていただくと、「氏名」欄には、韓国名が書かれておらず、日本人風の「通称名」しか書いてありませんでした。「国籍」欄には、「韓国」と書いてあります。
外国人登録法が廃止されて、制度が新しくなった現在、通常であるならば、特別永住者証明書カードの「氏名」欄には、本名すなわち韓国の姓と名前だけが書いてあるはずです。
日本の市役所で出してもらった住民票を見ても、「氏名」欄には、日本人風の名前が書いてあって、「通称」欄は空白となっていました。
通常、在日韓国人の場合は、「氏名」欄に韓国名(本名)が書いてあって、「通称」欄には、普段、日常で使っている日本人風の「通称名」が記載されているのですが、このお客様の場合は、「通称名」が「本名」のように書かれていて、韓国名fがどこにも書かれていません。
お客様のお父様が日本の役所に出生届けを出した際に、日本名だけしか記載していなかったので、このようになったようです。
日本からは韓国国籍とみなされていますが、韓国からは自国の国民と認められていない、いわば「無国籍」のような状態です。
このような状況で、韓国に「戸籍を作る」ことができるのでしょうか?
大阪の韓国総領事館で聞いてみますと、特別永住者証明書カードや住民票に韓国の姓が書いてあったら簡単にできるのだが、日本の名字では韓国の国民になることはできない。とにかく、日本の証明書のどこかに韓国の姓が書かれていれば認められるので、「氏名」を韓国名に変えてもらうか、それができないなら住民票の「通称」欄に韓国名を書き加えてもらったらいい、と言われました。
「通称」とは、普通、日本名を書くところなのに、逆に「韓国名」を書くことができるのか?
市役所に問い合わせてみたところ、外国人の「通称」は、日常において継続的に使用している場合に、そのような状況を証明することができる郵便物などで証明したり、結婚して相手の名前を日常的に使うようになった場合にだけ認められるもので、今回のように便宜的に韓国名を付け加えたりすることはできないと言われました。また、特別永住者証明書や外国人の住民票に記載する情報については、法務省の入国管理局から送られた情報をもとに記載しているので入管に問い合わせてほしいと言われました。
ということで、入管で直接聞いたところ、外国人の通称名は、もともと銀行などの民間の便宜のために任意で扱っているものなので法的に意味のあるものではないし、国が管理しているものではない。
また、「氏名」を韓国名に変更するのも、その人の属する国である韓国から提供される情報に基づいて変更できるものであり、日本側が独自に判断して変更できるものではない。
住民票は、総務省の管轄であり、市役所が扱っているものであるから市役所に聞いてほしいと言われました。
けっきょく、日本の公文書に韓国名を書き加えてもらうことはできなさそうなので、このまま、希望する韓国名で韓国の家族関係登録簿を創設の申請をするという手続きを取ることになりました。
申請理由書を韓国語で書いて出しました。
日本の外国人登録原票を東京の法務省に開示請求して取り寄せて、それをすべて韓国語に翻訳して提出しました。
また、ご兄弟の一人が、数十年前に一人だけ韓国の戸籍を作っておられるということなので、その方が実際に兄弟であることを保証するという内容の身元保証書を韓国語で書いて署名と押印をいただき、基本証明書と家族関係証明書も添付しました。
これらの申請書類は領事館を通じて、韓国の家庭裁判所(家庭法院)に送られます。
申請が認められるかどうかは、家庭法院の判断によるので認められない場合もあります。
現在、その判断を待っているところですが、在外同胞にとって優しい寛大な判断をしていただくことを願っています。
同じように、韓国の戸籍関係や国民登録、家族関係登録のことでお困りの方は当事務所までお気軽にご相談ください。